なくなった母の原戸籍謄本を取ろうと、朝から母の出生地である安城市役所に向かった。
安城市役所はJRに乗って5分、歩いて15分。
数分歩いて大通り。
歩道のベンチに銅像が「座って」いる。
おやと見れば、やっぱり新美南吉。
傍らの女子像は、安城女学校の生徒、南吉の教え子か。
うちの母も教え子、新美南吉先生に恋してた?
これは2ショットを撮らねばと「自撮り」をしていたら、なんだろうと覗き込む女性。
私をでなくて、覗き込んだのは銅像ね。
後で知ったが私の10歳上の80歳ほどの女性だ。
「これは地元ゆかりの新美南吉ですよ」と、シッタカ説明。
「そうなんですか。」
「ご存知ないとは、安城の人ではないんですね。」
「つい最近、岡山から引っ越して来たんですよ。この歳になったんで安城に居る息子に呼び寄せられまして、息子の近くで一人暮らししています。今日は安城市役所に(医療関係の)助成金の申請に行ったんですけど、岡山でしてくれと言われました。無駄足でしたね。」
不満げなそぶりもなく語ってくれた。
その後、彼女もいっしょに自撮り記念撮影。
すると、さらに高齢な女性が現れた。
歩くのがつらそうにしていた。
市役所に行くんだそうだ。
おっ、市役所詣で高齢者が3人揃った。
彼女もいっしょに自撮り記念撮影。
新美南吉との集合写真となった。
ベンチに座って、老人3人の井戸端会議が始まった。
後に現れた老人Bの「大変だ」話が、その場を支配していた。
彼女も一人暮らしだという。
「そんな、大変だ大変だばっかり言ってちゃだめですよ。市役所に行くのもいい運動になるじゃないですか。歩くの辛いったって、歩けるんだから」といたわりのない私。
老人Aは、私の話を支持してくれている感じの、お気楽にTake it easy。
会話が「2対1」となって老人Bの旗色が悪いが、そんなことにめげず「大変だ」を止めない。
「(同じく)一人暮らしの友達からしょっちゅう電話がかかってきて、『買い物に行こう』と誘われるんだけど、いい迷惑。歩くの大変だし」
老人の井戸端会議が、長引きそうなので(すでに長引いているけど)お開きにして、私は市役所に向かった。
同じく市役所を目指す老人Bを置き去りにしてね。
市役所での手続きには時間がかかったが、無事戸籍謄本を手に入れて市役所を出ようとしたら、ようやく老人Bはたどり着いて、受付案内の職員さんに「大変だ」を連発していた。
老後は「大変だ」で時間が埋まっていくもののようだ。
否定をしないし、私もそうだと思っているよ。
老人は動きが遅いし。
でもそうやって時間を過ごすのは、有意義な人生の過ごし方だと思うよ。
大変でも幸せな人生だよ。
そしてね、口に出さないだけで、幸せは倍増する。