引き続き、「印刷業界に明日はない」（1994.7.15 稿）を掲載。
懐かしく読んでみたら、前出の「細野晴臣作曲講座（1984）」からのネタをいただいている。
この記事は1994年のものだから、12年後の44歳。
ということは、音楽界のデジタル化が12年遅れて印刷業界にも訪れたってことだけど、その印刷業でのデジタル化前夜の頃に書いた原稿なのだ。
予言者気取りで、おはずかしい。
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印刷業界に明日はない
岡田吉生
「ああ、またお金がかかるな」とMacの見積書をぼんやりとながめていたら、今年1月に中途で入社した杉本くんが横に来て、「この前お話したビートルズの海賊盤CDですが、今度の土曜日に手に入りそうです」という。
このハタチの杉本くんの入社の経緯がおもしろい。それ以前は電算写植の仕事をしていたのだが、 突然クビになったのだそうだ。面接の時、履歴書を見ると、趣味の欄に「音楽演奏」とある。「どんな音楽が好きなの」と聞くと、「演歌以外なら何で も」。（私と同じだ。おもしろいやつやな)。
「この前、日本武道館へエリック・クラプトンのライブを見に行ったんだよ。Wonderful Tonightが良かったなあ」というと、「ボクも名古屋レインボーホールに行きました」と、コンサートでの演奏の曲順をしゃべりだした。（なかなか見どころのあるやつだ）ということで採用。
そういえば以前、履歴書の通勤方法欄に「徒歩45分」と書いてた男性を、「いいなあ!」と採用したこともある（名誉のためにいっておくが、いくら地方都市とはいえ、わが街岡崎には車もあれば、 公共交通機関ももちろんある）。
こう書いてくると、わが社の採用基準もおのずから浮き彫りとなってくるであろう。今年の新卒 募集の時の会社案内は、ワープロでわずか3行、 「地味な会社です。給料は高くないです。働き放題です」。立派なルーキーが4名入社した。入社の際 にユニフォーム（なんて書くとカッコイイけど、 要するに作業服）を渡して、「就業規則には着るよ うに書いてあるけど、着ても着なくてもどっちで 「もいいよ」といったら、翌日一人も着てこなかっ た。ハハ。うちの会長なんて、ハデなカラーシャツを着て、「君たちもこういうカッコイイのを着ろ」と社内の和を乱して（?）回っている。
着てる社員、着てない社員、半々ぐらいだけど、 どっちでもいい。先日、会社見学のお客さんが、「制服の方と私服の方はどういう区別なんですか」 と聞かれるから、「制服の好きな社員さんと私服の 好きな社員さんです」と答えておいた。
会社に「物事にとらわれず、主体的に生きる」人が増えればいいなあ、と思っている。 そんなことが、私の企業経営の目的みたいだ。
ところで、私の好きでない「演歌」に話を戻そう。 あまり知られていないことだが、演歌の歌以外の部分の演奏がコンピュータで作られているという事実がある。すべての演歌のレコード（今はCDか）がそうとはいわないが、何割かはそうである。それも今始まったことではなく、もう十年も前からだ。 森進一の「紐育物語」では、ドリフターズばりのストリングスを聴くことができる。
コンピュータで作る音楽というと、冨田勲、YMO、喜多郎と想像する人も多いと思うが,ああいう「コンピュータでござい」といったのは、コンピュータで作られている音楽のほんの一部で、もっと「自然」なものが世の中にあふれている。私自身、Macintosh Plus（なつかしーい）を7年前に手に入れたのも、音楽をやりたくてのことだ。
従来ならば、作詞家が作詞し、作曲家が作曲し、編曲家が編曲し、スタジオにオーケストラや歌手 を集めて録音し、レコードにプレスする。そんな 過程も、多重録音という時代を経て、今は作曲家 や作詞家が、あるいは歌手自身が、コンピュータ で曲を作り（いわゆるカラオケ状態にして）、後は歌手が歌を乗っけて（アイドル歌手なんかは一番うまく歌えた部分を切り貼りして）、CDにプレスして、それでおしまい。制作時間も短いし、人件費も激減だし、何よりも工程間の齟齬がない。
何が言いたいか。もうお気づきのことと思うが、 今業界でDTPがどうのこうのといっているが、「DTP化するかどうか」ではなく、「DTP化に決まっている」のである。音楽がDTM化したように。
国語制度審議会とやらで、当用漢字の出し入れをご老人がたが何十年もすったもんだしているうちに、ワープロの時代になってJIS第1水準、第2水準のほうが主流となってしまった。JISとは日本 「工業」規格のことである。「文化（とも思わないが）」を「工業」 がコントロールしてしまった。工業をテクノロジーと置き換えて考えてもよいと思う。否応なしにそう流れている。またそれが「よい方向」だと思う。世の中はトータルで見れば、「よい方向」に流れていく。
公害処理産業という業界がある。今は成長産業 かもしれない。でも長期的に見れば、世の役に立つ企業が残り、害を及ぼす企業は潰れていくのが「よい方向」だから、たれ流す企業はなくなり、たれ流したものを処理する仕事も減るだろう。じゃあ公害処理産業に明日はないのかということになるのだが,生き延びる道のひとつには、「たれ流さ ない」ノウハウをひっさげて企業の公害処理の「内製化」のお手伝いをすることがあると思う。
印刷業界もそうだ。DTPによって企業の印刷の内製化は進む。しかしそれが流れならば、逆らうのもひとつだが、その内製化のお手伝いをする印刷会社も増えてくるのではないか。それによっていわゆる「業界」は消えるかもしれない。いや、消えると思う。 業界にこだわっていたら、もっと大きなものを失ってしまいかねない。それは決して暗い未来ではなくて、「よい方向」なのだと、楽観主義者の私は思う。ところで来春新卒に向けての会社案内だが、「一人で一日中海を眺めていても平気な人を求めています」 の一行のみ、なんてのはどう?
前回6月号は小倉克夫氏（株式会社二鶴堂印刷所）次回8月号は西川井勝氏（西川印刷株式会社）
<ブラザー印刷株式会社> 1951年創業54年設立。 得意分野は名簿、書籍などの文字物。85年よりデジタル化に着手、今後はプリプレスのみならず印刷工程、経営をも含めた全面デジタル化を目指す。 MG（マネージメントゲーム）/MT（パソコン・マイツール）/NK（脳力開発）の三本柱で、全員経営全員コンピュータ・全員明元素（めいげんそ・明るく、元気で、素直）を実現。
■本社工場:〒444岡崎市戸崎町原山54-3 (0564)51-0651
おかだ よしお。 1949年 12月7日生まれ、44歳。 岡崎市出身。慶応義塾大学商学部卒。1975年ブラザー印刷（株）入社。 現在専務取締役。趣味は音楽、外泊。
